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【本】本数珠つなぎ 6冊目 『大脱走 英雄〈ビッグX〉の生涯』

 

本数珠つなぎ6冊目は『大脱走』と間違えて借りた

大脱走 英雄〈ビッグX〉の生涯』サイモン・ピアソン著(小学館文庫)

ポール・ブリックヒル著の大脱走は映画の原作となったノンフィクション。大脱走を俯瞰的に描いています。脱走の様子は詳細ですが人物の方はさらりとして、深く踏み込んでいません。

 

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大脱走 英雄〈ビッグX〉の生涯』大脱走のリーダーであったロジャー・ブッシェル少佐の34年の生涯を描いた伝記です。ビッグXと呼ばれたロジャーの人物像に迫った大作です。
大脱走は1944年。本作は2012年に上奏されています。60年以上の時が経ち、関係者の多くは亡くなっており、残された文献が中心になっています。その中にはロジャーの個人的な手紙が含まれており、彼の女性関係のだらしなさも明らかになっています。

そう、ビッグXは英雄ですが、それってどうなん? といった面もありました。
光が当たっているところだけでビッグXを語ると、

9ヶ国語をしゃべり、
スキーの国際大会に出るほどのアスリートであり、
ケンブリッジを出て弁護士となった文武両道の人物です。
統率力、判断力、人望、頭脳、勇気、実行力、そして反骨精神を持ち合わせた英雄です。
大脱走というビックプロジェクトを成し遂げただけのことはあります。

影の部分に目を向けると、

貴族社会に憧れ
女にだらしない男であり、
未練たらしく
自惚れ屋であり、
身勝手であり、
そしてスパイでした。
ノンフィクション、映画の『大脱走』では触れられていませんが、ビッグXはスパイだったと思われるのです。

捕虜のスパイ行為はジュネーブ条約違反だそうです。であるが故に、ビッグXことロジャーのことはあまり公にはなっていませんでした。ヒトラーを激怒させ、ドイツ軍を混乱させた大脱走という偉業を成し遂げた人物でありながら、実在の人物としてのロジャーは日の当たる場所には出てきていませんでした。その背景には、スパイ行為を行っていたと思われる影の部分があったからなのです。ジュネーブ条約違反ですから意図的に隠されていたのですね。

映画『大脱走』のビッグXにはどこか暗いところがありました。周りの登場人物の健全な明るさに比べ、陰気な感じが否めませんでした。スパイだったという影の部分を暗に演じていたのかもしれません。というと勘繰りすぎでしょうか。

映画『大脱走』に出てくる登場人物は、実在の人物を少し変えていたり、二人の人物を一人の人物にしてみたり、娯楽映画のために改変されています。スティーブ・マックイーンジェームズ・ガーナー演じる米兵は実在しません。実在の人物のキャラクタを寄せ集めて、創作された人物のようです。でも、ビッグXはほぼリアルに描かれているようです。

映画『大脱走』でジェームズ・コバーン演じるオーストリア人のルイス・セジウィックは実在の人物に近いようです。映画『大脱走』の中で一番好きなキャラクターです。飄々としたところが好きです。映画の中では長い足で自転車をこぎ、偶然知り合ったレジスタンスに助けられ、国境を越えることに成功します。
実在の人物はオランダ人のボブ・ファン・デア・ストック。脱走のときにはピレネー山脈を越え、スペインに入ったそうです。76名のうち国境を超えた3名のうちの1名です。
映画の中で彼は脱走の際に大きなトランクを持って逃げようとします。トンネルを通れないから止めろと言われても大丈夫だと意に介しません。実際の脱走でも同様なことああったようです。規定の大きさを越えるバッグや毛布を持ってトンネルを潜ろうとして、トンネルを壊して脱出が中断するということが何度かありました。
大脱走 英雄〈ビッグX〉の生涯』には、ロジャー以外の脱走兵の足取りも紹介されています。映画で見たようなエピソードも散見されます。映画は史実を再構築して娯楽映画に仕上げているのです。

これ以上書くと映画の話になるのでこの辺で。

さて、本数珠つなぎの7冊目は史上最大の作戦にしました。これも第二次世界大戦を描いた映画になったノンフィクションです。『大脱走』の同じ筑摩書房のノンフィクション全集に収録されていました。
大脱走 英雄〈ビッグX〉の生涯』にも書かれていますが、大脱走は無駄な50人の死人を出しただけとの批判もあるようです。
大脱走が行われた1944年はドイツ軍の崩壊の兆しが見られていました。大脱走は買収されたドイツ兵無くして成功しませんでした。ドイツ軍の規律、戦意の低下につけこんで、彼らを買収し、物資や情報を手に入れていたのです。いずれ崩壊すると分かっていたのだから、大人しくしておけばいずれ開放されていただろう、ヒトラーゲシュタポを刺激して50名もの処刑者を出さずにすんだはずだ、と批判者はいいます。
でも、脱走は捕虜に課せられた義務なのです。

脱走は将兵の義務である
敵の手中にあろうとなかろうと、戦士は戦士であり続け、戦いつづける

ビッグXはこの将校として戦士として、敵国の中でドイツ軍と戦っていたのです。

事実、半年後にノルマンディー上陸作戦により連合軍は欧州に上陸し、ドイツ軍、ヒトラー軍事政権の崩壊が始まるのです。

ということで、次は史上最大の作戦です。